ありがとうさえ、下手だった


ラビットが椅子の背もたれに身を預けて両足を投げ出しながら言った。

「刹那さんはまだ、“人間”なんだね」

「そんなもの、とっくの昔に捨てた」

殺し屋になるということは、人間でなくなることと同じだった。
人が人を殺す、なんて残酷な世界。

長年俺と共に多くの血にまみれてきたナイフが、俺に笑いかける。

もっと血が欲しいとささやく。

「私は殺した相手の顔なんてまったく覚えてない。言われるままに殺して、殺して、殺すだけ」

それって、人形と変わらないよね。
彼女が珍しく弱気な発言をした。

殺人に何の感情も持たない彼女は確かに人形と変わりないかもしれない。

けれども殺人人形よりも物騒なものだってあることをわかってほしい。


人を殺す時、その体から噴き上がる血を見る時、俺の体は「楽しい」と疼くのだ。

それはきっと、無感情に殺人を行う彼女よりも重症だ。


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