ありがとうさえ、下手だった
携帯を開き、一人の人物を呼びだす。
彼は不思議そうな顔で暗い路地裏に足を運んできた。
しかしその表情にはどこか後ろめたさが感じられる。
「今回はずいぶんと手間取っているんだな」
反応を楽しむようにゆっくりと音を唇に乗せていくと、案の定彼は少しだけ口元を歪めた。
気付かれないようにごまかしたつもりでも、俺は騙されない。
「一カ月の猶予期間があるなら、ゆっくりやってもいいだろ?
俺だって少しは休みたいんでね」
コードネーム777。
最高に縁起がよく不吉な番号を持つ彼の名は、旭。
その名の通り朝陽のように眩しい髪を揺らして、彼はそう不平をこぼした。
確かにこのところ落ちこぼれのあいつが使い物にならないので、ずっと旭に依頼を回していた。
休みたいというのもあるだろう。
しかし。
「お前が殺そうとしている相田満希、だったか。そいつと以前交際関係にあったらしい」
新しい依頼を言い渡してそう告げると、明らかに彼の顔が強張った。
俺でなくても表情の変化が見て取れるぐらいに。