ありがとうさえ、下手だった
楽しくてしかたないよ、旭。
お前が苦しむたび、もっと苦しんでほしいという欲望が顔を出す。
人々の欲深さを嫌うふりをして、一番欲深いのは俺に違いない。
殺したい、傷つけたい、苦しませたい。
そのすべてを叶えるために俺はここにいるのだから。
ふらつく足で旭が去って行った後、俺はひとりほくそ笑んでいた。
彼は今回のターゲットを殺す時、一体どんな顔で殺すのだろう。
旭はいつも仕事が早い。
だから今回の依頼にとても手間取っているということは、彼も落ちこぼれてしまったということなのだろう。
殺された恋人を振り切ってまで自分の命を守ろうとした彼もまた、「人間」を捨て切れずにいたのだ。
「刹那さん」
ドアを開けて中に入ろうとすると、入口でラビットが待ち構えていた。
血の匂いがまとわりつくウサギが、にやりと微笑んでいる。
それに反して彼女はどこか哀しそうだった。
「…どうした」
「旭を、苦しめちゃダメだよ」
「何を今さら」
苦笑いを浮かべて笑い飛ばそうとしたが、彼女の真剣な顔つきは揺るがない。