ありがとうさえ、下手だった


「あなたは、誰かを傷つけることをきっと誰よりも恐れてる」

「そんなわけがない」

間髪入れずに叫んだなら、辺りの空気が細かく震えた。
路地裏を吹き抜ける鋭い風が、俺の背中を突き刺す。

「そんなはずがない。俺はお前より重症だ、殺人を楽しんでいる。
俺は、もう人の心など持ってはいない」

「…嘘よ」

彼女の瞳からこぼれた水滴が、血なまぐさいウサギの頬を打った。
こびりついた血液がそこだけじわりと滲む。

やめろ、それ以上言うな。
俺だってまだ気付いていないことをお前が口にするな。

勝手に俺を語るな。


「それは防衛線よ。楽しいと思うことで刹那さんは、自分の心を守ろうとしてる。
…そうしないと、この世界の頂点に立つことに耐えられないから」

「何を、バカな、ことを…」

まるで俺が弱者のようじゃないか。
違う、そうじゃない。
俺は殺し屋のトップだ。

誰よりも多くの人を殺し、誰よりも早く依頼をこなしてきた。


俺は、俺は強い――。


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