ありがとうさえ、下手だった


彼女は舐めるような目つきで俺を見つめ、大きく深呼吸をしてから一息に言い放った。


「私、殺し屋になりたい」

その頃ここは組織と呼べるほどのものではなく、ほとんど俺が単独で行っているようなものだった。
組織などと大げさなものにするつもりもなかった。
俺は彼女を見つめ返し、訊ねる。

「いいのか。今まで積み重ねてきたものは何一つ通用しなくなるぞ」

礼儀だとか愛想だとか、そんなものは殺し屋には必要ない。
必要なのは思い切りの良さと素早さ。
そしてすべてを捨てる覚悟。

家族も友人も恋人も、足枷になるものはことごとく敬遠しなければならない。

だが彼女はまったくためらわなかった。
コンマ一秒、もしかしたらそれより早いぐらいすぐに答えを出した。

「それでいい」

短い返事だった。
その後にもう一度言いなおす。

「それがいい」

その言葉は、妥協ではない決断だった。

仲間などいらないし、ほしいとも思わない。
だから俺は迷っていたが、それを聞いて考えが変わった。

「来い」

こいつなら大丈夫だ。
何の根拠も無くそう感じたのは、嘘じゃなかった。


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