ありがとうさえ、下手だった


「なぜ、殺し屋になろうと思った」


訊ねた瞬間、彼女の瞳から涙がこぼれた。
抑えることなく自然にこぼれた涙は、微力な輝きを放って地面に落ちた。

怪訝な顔をする俺に、彼女は歯を食いしばって答えた。

「…殺さなきゃいけない、人がいる」

そう言うものだから俺はてっきり、憎んでいる奴を殺しに行くのかと思っていた。



だがその後で、血しぶきの散った白いウサギを抱えて戻ってきた彼女から理由を聞き、後悔した。
我ながら、なんと短絡的な考え方だったのだろう。

「う、うあぁ…っ」

出かけたきりなかなか戻ってこなかった彼女が、帰ってきた途端にその場に膝を折った。
悲痛な叫び声が、喉の奥から絞り出すように飛び出て来た。

「殺しちゃったの、私。あの子を…、あの子を…!!」

「…落ち着け」

あまりにも錯乱状態にある彼女の肩に手を添え、ゆっくりと背中をさすってやる。

彼女は震える声で、歯をガチガチと鳴らしながら語り始めた。


自分が、殺し屋になった本当の理由を。


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