ありがとうさえ、下手だった
俺は目の前に立ちはだかるラビットを強引にどけ、先に進む。
「刹那さんっ」
ラビットが何度も俺を呼ぶ声がしたが、すべて無視した。
あれだけ不愉快な思いをさせられてまだ会話ができるほど、俺はできた人間ではない。
今日は殺さずにすんだが、次はどうなるかわからない。
同じ組織内にいたとしても、俺は殺すことを躊躇しない。
この職業のトップとして当然のことだった。
乱暴な音を立てて椅子に座り、机上の封筒の封を次々と切っていく。
まったく、嫌気がさす。
1億3千人という人口の中で、どうして思考はこれほど同じものが重なるのか。
舌打ちしながら目をやった書類のひとつに、俺は目を奪われた。
「―――」
手から紙が落ちていくのを見ることもできなかった。
俺の親友を、殺してほしい。
記憶がえぐりだされる。
今までこなしてきた依頼の中で最も思い出したくない記憶が。
胃の奥から苦くて酸っぱいものが込み上げて来て、思わず手で口を押さえる。
もう片方の手を腹部にやり、強く服を握りしめる。
気持ち悪い。
力が入らない。