ありがとうさえ、下手だった
思い出そうと思えばいつでも思い出せる。
けれどずっと拒否してきた。
それは…。
「刹那さん!?」
椅子から崩れ落ちるように床に膝をついた俺のもとに、ラビットが駆け寄ってくる。
来るな、お前の顔なんて見たくない。
あの時の記憶がさらに濃くなる。
背中をさすろうとする彼女の手を振り払おうと努力したが、力が抜けてうまくいかない。
何だってこんな時に来たんだ。
こんな依頼も、お前も。
「…大丈夫?」
「っ、触るな…っ」
けれど彼女は俺の背に添えた手を離そうとしない。
彼女の顔が近づく。
血なまぐさい匂いとは別に、ふわりと甘い香りが漂った。
安心すると思ってしまったのは、きっと何かの間違いだ。