ありがとうさえ、下手だった
気遣わしそうな視線、背中から頬に移動してきた手、接近してくる甘い匂い。
全部が煩わしくてしかたなかった。
「刹那さん…。私、聞いたことなかったよね」
何を、と聞こうとしたが、吐き気がせり上がってきて声を出すことも叶わない。
俺の手から落ちた紙は床の上を滑ってずいぶん遠い所にあった。
「刹那さんが、殺し屋になった理由を」
下腹部がずきずきと痛む。
これは肉体的な痛みか、精神的な痛みか。
そのどちらでもあるような気がした。
「それで苦しんでるなら、今すぐ話して。
楽になるから」
お前に話して、楽になどなるものか。
なってたまるか。
俺は救われてはいけない。
こんな世界にいる時点で、救いを求めることなど諦めた。
そうすることが、殺された者への償いだと思っていた。
「俺は、」
けれど、もう。
「俺は…」
限界だ。
「ずっと、
孤独だった」