ありがとうさえ、下手だった


その声はもしかするとナイフでも何でもない、俺自身の声だったのかもしれない。
声に導かれるまま、俺は何人もの人を殺した。

理由なんてないと言えば、皆は怒り狂うだろうか。

だが本当に理由なんてなかったのだ。
あるとするならば、血を見たかったから。


無気力ながら、高校までは通っていた。
そこで出逢ったのが、あいつだった。

「おーい、待ってくれよ!」

聞いていて心地のいい声。
広く高く澄み渡って、雑音の混じるところがない。

彼は俺の、数少ない友達だった。

人間として、尊敬していた。
だから自分が殺人犯であることを、言えるはずも無かった。

彼に嫌われたくなかったのだというのは、子供の考え方だろうか。


「なぁ…。俺さ、最近すごくイライラする奴がいるんだ」

そんな彼が表情を曇らせるものだから、とても気がかりだった。
聞けば、部活でスタメンに選ばれなかったのだと言う。

「俺すごくがんばってたのに、なんでかなぁ」


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