ありがとうさえ、下手だった
運動部は競争が激しい。
しかし彼はその渦中から放り出されてしまったのだ。
彼はとても練習熱心だった。
それなのにどうして。
「選ばれたのは誰なんだ」
訊ねると彼は何人かの部員の名前を挙げた。
その中には、学年で有名な問題児も混ざっていた。
どうしてあいつが?
そう思ったのは彼も一緒だったらしい。
「お前も思うよな?俺も、なんであいつが選ばれたのかわからないんだ」
その問題児は進学校であったここで堂々と髪を染め、耳にピアス穴を空けて登校してくるような奴だった。
そんな奴を試合に出してメリットがあるのかどうか。
「でもあいつ、普段は練習しないのに、最近やけに練習してたんだ。
まるで先生に見せつけるみたいに…」
いつも例外なく頑張る部員は確かに偉い。
だがいつも練習していない部員が急に練習をすれば、皆の視線はそちらに向けられる。
善人の善行は目立たない。
けれども悪人の善行は、嫌というほど目立ってしまうのだ。
あいつは、それを利用した。
試合に出たいがために。