ありがとうさえ、下手だった
それでも俺は彼に失望できなかった。
殺人犯だと言いだすこともできなかった。
そして彼を止めることも、また。
「…へぇ。誰だよ、そいつ」
俺は、あまりにも弱かった。
偽物の力を手に入れたがために、舞い上がっていた。
俺も、彼も、弱かった。
俺が犯した殺人は、メディアでも大々的に取り上げられた。
当たり前だ。
町内という狭い範囲で、いくつもの遺体が発見されている。
それも、正体不明の何者かによって無残に殺された姿で。
世間は俺を「殺し屋」と称した。
その時になって俺は初めて、自分がやっていることがそういう風に呼ばれるものなのだと理解した。
胸は、痛まなかった。