ありがとうさえ、下手だった
泣いていないとは言えなかった。
瞳から流れ頬を伝う熱い水の正体を、俺も知っていたから。
どれだけ諦めが悪いんだ。
普通は寄ってこないだろう。
少し口答えすれば殺されてしまうかもしれないのに。
「ラビット…」
俺に近づいてくれて、触れてくれて、理解しようとしてくれた。
お前だけなんだ。
俺の存在を認めてくれたのは。
「お前は、本当に、バカだ」
彼女がくしゃっと顔を歪めて笑う。
何とも情けない、泣き笑いだった。
「いいよ、バカで」
何年振りだろう、この言葉を口にするのは。
もうずっと、喉の奥で凍りついていた気がする。
その氷を溶かそうとも思わなかった。
必要のない言葉だった。
けれど、けれど俺は。