ありがとうさえ、下手だった
彼女は震える両手の指を組み合わせ、小さな声で口にする。
「こ、殺してほしいの…。相手の情報は依頼状と一緒に送ったわ」
「ああ、目を通した」
すぐに破り捨てたがな。
「よかった…。彼女はいつもここの駐車場を使っているわ。だから今日、ここを待ち合わせ場所に指定したのよ」
「車体は?」
「あそこにある青色の車よ」
ちらほらと車が停まる中に、一際くっきりと存在感を主張する青い車があった。
殺すように依頼されたのは、彼女の後輩だという女だ。
書類と共に送られてきた写真には、勝気そうな顔をした髪の長い女が写っていた。
自分がこれから手にかける相手の像を頭の中に思い浮かべてから、俺はふと彼女の方を振り返る。
「見ていくのか?」
彼女は何のことかと一瞬思案した後に、顔を歪めて笑った。
「あ、当たり前よ。あの子、生意気なんだもの。仕事でも出しゃばっちゃって、大して仕事ができるわけでもないのに、バカみたい」
ひどく醜い笑顔だった。