ありがとうさえ、下手だった
「今の企画は私が任されていたものなのに。どうしてあの子ばっかり褒められるの。それだけじゃない、あの子、私の彼氏まで取ろうとして…っ」
生憎と、俺は人生相談のカウンセラーではない。
適当に彼女の罵詈雑言を聞き流して、俺は服の下のナイフに手を当てる。
ひんやりと冷たい感触が俺を落ち着かせた。
こんな冷たさで落ち着く俺も、どうかしている。
「来た…!」
彼女が慌てて物陰に逃げていく。
逃げるぐらいなら最初からいなければいいのに。
足手まといがいると迷惑だ。
俺はわざと足音を立てて女に近づく。
その音に、女が何の気なしに振りかえる。
ためらうことなく、戸惑うことなく、けれどゆっくりと大げさに苦しみを与えるように。
俺は、女の喉元にナイフを突き刺した。
ずぶりと刃先が肉に食い込んでいく感触。
溢れだした血がナイフを濡らす。
この赤い世界こそが、俺の居場所だった。