月夜に舞う桜華



思わず耳を疑う。
ドクン、ドクンと心臓は不自然に脈打っていた。


「あ?きこえてるよ」


―――桜姫っ。ちょっと聞いてくれよ!


耳に残る懐かしい声。
ゆっくりと振り返る彼にあたしは、呼吸を忘れた。


髪は金髪だが、その顔は紛れもなく見たことのある、顔。


「か……ず…」

「………久しぶりだな。桜姫」


紛れもなくかつて仲間だった、米川和がそこにいた。


「雷心、すまねぇな」

「たく、何時バレるんじゃねぇかってヒヤヒヤしたんだからな」

「お前の演技力はアカデミー賞もんだよ」

「そりゃどーも」


和と雷心が他愛もない話をしているなか、あたしは、久しぶりの和の顔を見て不思議に冷静でいられている自分がいる。
あれだけ、どうなるか予測できなかったのに存外あたしは冷たい人間らしい。


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