月夜に舞う桜華
この男には罪悪感というものはないのだろうか。
「せっかく手に入れたのに、桜姫が生きてるなんて驚いたさ」
だんだんと縮まる距離。
命を奪うことの出来るナイフを持っているのに、あたしは逃げることはしない。
「あたしも、生きてた時は驚いた」
病院のベッドの上で。
「なぁ、桜姫。桜姫に生きててもらったら困るんだよな」
ゆっくりと上がっていた眉が下がっていく。
「困る?」
「そう、困るんだ」
ザッと和は足を止めた。
あたしとの距離はナイフを持つ手を伸ばせばあたしに届く暗いの場所だ。
「あたし、あんたに迷惑かけたっけ?」
むしろあたしにはあんたに迷惑かけられた記憶しかないよ。
フッと笑って見せれば和は顔を歪める。