月夜に舞う桜華
大丈夫だと言う。
もう十分だと。
あたしは?
あたしは、このまま和と共に行かなくていいの?
(―……あぁ、そういえば)
最期に見た朔夜はぼやけていたな。
せめて鮮明に見たかったよ。
もう死んでるけど、最期に見てまた戻ってこようか。
『―――和』
『ん、じゃあな桜姫』
『また、あとでな』
すぐに追いつくから。
きっと朔夜の声が聞こえるのはあたしに心残りがあるからなんだ。
そう思えば納得する。
あたしは、和に見送られ戻っていく。
その背中を和が涙を流しながら見送っているとは知らずに。
『………桜姫』
椿の姿が小さくなり始め、和はゆっくり背中を向けた。
『俺の身勝手さを赦してくれてありがとう』
桜姫の事を何も理解していなかった俺を赦してくれ。
だから、せめて、桜姫は。
『じゃあな、桜姫』
桜姫―――――アイシテイタ。
だんだんと辺りは暗くなっていく。
離れていく二人の間を桜の花びらが舞っていた。