月夜に舞う桜華
「―――――椿!!!」
一瞬、椿と視線が混じったような気がした。
「っ!!」
俺は、足を叱咤しながらようやく椿に駆け寄る。
「椿!椿!」
すぐに椿を抱き起こし、頬を軽く叩く。
しかし、椿は一切の反応を示さない。
「っ貴様っ!!」
俺は、傍らに立っている元凶を睨み付ける。
奴の片手には真っ赤に染まったナイフが握られている。
椿の体を見れば下腹部が真っ赤に染まり地面に吸い込まれていく。
(チッくそっ……!!)
奴を今すぐ刺し殺したい衝動に駆られるが、優先すべきことがある。
俺は、直ぐに携帯を取り出し、救急車を呼んだ。
今、何よりも優先すべきなのは椿だ。
患部からは血が絶えず流れ、手で押さえても止まることはない。
自分の手が赤くなることにも構うことなく俺は椿の名前を呼び続ける。