月夜に舞う桜華



「………これで、良かったんだよな。」


弱々しい小さな声が上から降ってくる。
顔だけを上げれば、奴はハラハラと涙を流しながら椿を見下ろしている。


「お前、」

「良いんだ……これで……」


壊れたロボットのように同じ言葉を繰り返しながら奴はフラフラと歩き出す。


その先は陸のない海。


「っおい!」

「これで、俺はもう苦しまなくてすむんだよな」


陸と海との境目ギリギリで奴は立ち止まる。少しでも動いてしまったら海に落ちてしまうだろう。


俺が呼ぶのも聞こえないのか、奴は空を仰ぐ。


「朔夜!!」

「……彰真、」


足音が複数向かってくる。
一瞬そちらに気をとられていると、肉を裂くような音を耳が微かに捉える。


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