月夜に舞う桜華
「なに?」
「なんでも、」
「だったら顔くらい洗いに行ったら?」
髪もボサボサ。
「……」
朔夜は、ジッとあたしを見た後、冷蔵庫から体を離す。そして、チラチラあたしを見ながら洗面所に向かっていく。
「………全く、」
心配性、と呟く。
前を向いて水を止めて包丁を握る。何気なしにリビングを覗き込んでみると、ぬいぐるみやら、写真やら。
とても朔夜の部屋だったとは思えなく賑やかになっている。
退院して連れてこられたのは朔夜の家。
有言実行とはよく言ったもので、あたしの荷物は全て運ばれていて、ご丁寧に片付けられていた。
部屋に案内されたときはまるでずっと住んでいたかのように違和感すらなかった。
ついでに、きっちりあたしの部屋の解約まで済ませていた。
『なんでも聞くって言ったろ』
意地悪気に笑う朔夜の顔は、まだ記憶に新しい。