王子様はルームメート~イケメン彼氏とドキドキ寮生活~
五話
「ダメ。眠れない」
綾菜は勢いよく毛布をめくった。
眠れるはずがない。
テーブルスタンドの光量を最大にする。
蝶をモチーフにしたステンドグラスのランプシェード。
光を受けて、壁に赤と紫の影が映る。
幻想的で大好きな光景なのに、今日だけは不気味に感じてしまう。
「……この蝶、今、動いた?」
ステンドグラスの模様が動くはずはない。
幽霊の正体見たり枯れ尾花――確か、こんな日本のことわざもある。
疑心暗鬼になっていると、枯れたすすきの穂まで幽霊に見えてしまう。今も同じ。
この蝶も、ただの模様。疑っているから動いたように見えるだけ。怖がる必要はない。
綾菜は自分に言いきかせた。
――けれど。
「正体を知っていたって、怖いものは怖いのよ」
まばたきをするたびに、影が微妙に位置を変えている気がする。
錯覚だとわかっていても、恐怖は理性とは関係なく生じてくる。
「無理。ここでは寝られない」