王子様はルームメート~イケメン彼氏とドキドキ寮生活~

「オマエ、風邪をひく気か?」

 見あげると、黒の瞳が綾菜を映していた。

「ごめんなさい。起こしちゃいました」

「いや。まだ寝ていなかった」

 綾菜はぴくんと反応した。

 久我も眠れなかったのか。

 自分と一緒だ。ぜひとも気持ちを共有して慰めあいたい。

「久我さんも、怖くて眠れなかったんですね。私もなんです」

「怖い? 俺はなにも怖くないぞ」

 わけがわからないといった表情。

 どうやら、綾菜の希望的観測による思いこみだったらしい。

「だって、あんな体験をして、まともに眠れるはずがないです。ほら、目を閉じると瞼にまた浮かんで……」

 地下の廊下に伸びる二つの影。気がつくと影は三つに増えていて――。

 驚いて、後ろを振りかえっても誰もいない。そもそも、明かりの場所から考えて、前方に影が伸びるはずはない。

 凍る背筋――。

 うっかり思いだしてしまい、綾菜は両手で自分を抱きしめた。
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