王子様はルームメート~イケメン彼氏とドキドキ寮生活~

「あれだけ怖がっておいて、まだ足りないのか?」

「恐怖は吐きだせばなくなるものじゃないんです」

 綾菜にしてみれば、飄々としている久我こそが理解できない。

 気配は確実にあるのに、どうやっても確認できない人の姿。

 迷って戻れなくなったとパニックを起こさせる順路。

 心理を巧みについた恐怖があらゆるところに、散りばめられていた。

 きもだめしは大成功。

 また企画してくれなどと、綾菜にしてみれば冗談ではすまない要望が、終了直後から運営委員に寄せられたらしい。

「御影と純也が考えるレベルの仕掛けだったろう? たいしたことはない」

「久我さんはそうかもしれないけど、私は……ひゃっ」

 窓ガラスが、突然きしんだ音をたてる。

 風のせい。わかっている。

 なのに、得体のしれない恐怖に心臓がわしづかみされた。

「女は演技で怖がるものだと思っていたけど、どうも違うみたいだな」

「演技なら、私もどんなによかったか」


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