王子様はルームメート~イケメン彼氏とドキドキ寮生活~

 綾菜はそっと手を伸ばし、久我の黒い髪に触れた。

 想像よりずっと柔らかい。気持ちがよくて、猫にするように何度も撫でてみる。

「じっくり見たことがなかったけれど、久我さんって肌もすっごく綺麗なんだ」

 起きないのをいいことに、綾菜は頬に指を滑らせた。

 しっとりした肌の手触りはやみつきになるほど心地がいい。

「どうしよう。止まらなくなりそう」

 瞼から形のいい鼻を触れ、また頬を撫でる。絵本の王子に現実に触っている気分。

「起きないね」

 眠り姫を目覚めさせたのは王子の口づけ。

 なら、王子はどうやったら目覚めるだろう。

 綾菜は、久我の唇を指でたどってみた。柔らかな弾力。

 なぜか、心臓がトクンと鳴った。

 もう一度、指をたどらせる。上唇と下唇の間にそうっと乗せると、甘噛みされているような錯覚に陥る。

 指を置いているだけなのに、すごくいけないことをしている気がする。

「痛っ……」

 人さし指に小さな痛みを覚えて、反射的に綾菜は手を引いた。

 下から、切れ長の瞳が綾菜を映している。

 目覚めた王子が悪戯で噛んだのだとようやく察した。
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