王子様はルームメート~イケメン彼氏とドキドキ寮生活~

「頭にクモの巣、ついてるぞ」

「えっ、どこ?」

 グロテスクなクモが吐きだした糸が絡みついているかと思うと、背筋がゾクリとする。

 髪を手でくしゃくしゃして探すが、なかなかそれらしき感触にあたらない。

「そこじゃない。耳の近く」

「わかんない。もーやだ」

「ったく、オマエは手がかかるな」

 ふんわり。

 大きな手が耳に触れる。

 くすぐったいのを我慢していると、粘液をまとった糸が、久我の指先とともにキラキラと目の前を過ぎていった。

「とれました?」

「ああ」

 眠っている久我を見た日以来、綾菜の男性恐怖症は少しずつよくなっていた。

 不意に近づかれても、ほとんど気分が悪くなることはない。

「こういうときホント助かります」

「俺は便利屋じゃないぞ」

 肩を竦める久我の笑顔が間近にある。

 近くで見ると、綺麗な顔だと改めて思う。やはり絵本の王子みたいだ。
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