【短編】七日間の天使
 「見てくださいスギハラさん、今日も太陽が笑ってます。」

 お洗濯日和ですねぇとソラは眩しそうに目を細める。

 ソラが僕の部屋に来てから今日で5回目の朝だ。

 あの日は吃驚した。

 バイトから帰ってくると、玄関前に女の子が倒れていたのだから。

 慌てて抱き起こして声を掛けると、彼女は薄く目を開け微笑んだ。

 そして、色の失せた唇で僕を呼んだ。

 「スギハラさん、」と――。


 ソラは、記憶喪失だった。

 症状は軽い物で、安静にしていれば失った記憶も戻るだろうと言われた。

 気付いてたさ。

 どれだけ清らかで美しくとも、ソラが天使じゃない事くらい。

 いつかは記憶を取り戻し、僕の世界からは遠く離れた場所へ帰ってしまうんじゃないかって事くらい。

 でも、だからこそ、僕はソラを天使だと思い込みたかった。

 天使だと思っていられれば、憧れで終えられる。

 美しい佇まいも心揺さぶられる笑みも、絵画のようだと思える。

 気付いてたさ。

 ソラが僕だけの天使にはなり得ない事くらい。

 彼女が時折無意識に、指に嵌められたリングをなぞる事くらい。

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