【短編】ありふれたメロディ
帰り道にオレはパン屋を訪れた。
「あ、やっぱり菜月さんいるじゃん」
カランカラン。
聞き慣れた扉の音も今はオレの背中を押す鐘にしか聞こえない。
「いらっしゃいませー……優太くん」
ん?なんだろう菜月さん暗くないか?
「いやぁ腹減ったなぁ今日は何にしようかな」
うきうきしながらパンを眺める。
正直パンなんてどうでも良い。
適当にタマゴパンとチョココルネでも買うさ。
オレはその2つをトレイに乗せてレジにいった。
「この前は楽しかったですね」
にこやかに、自然に。
そんなこと考えながらにこやかに話し掛ける。
「……うん、そうだね」
「菜月さん……?」
やっぱり今日は様子がおかしい。
いや、違う。
あの時からやっぱり菜月さんの様子がおかしいんだ。
「あ、あの……オレ、バンドやってるって言ったでしょ?それの選考会……大会みたいなのがあって決勝までいけることになったんです」
菜月さんはうつむいたままで、腹の底が冷たくなるみたいな感覚を味わった。
「それで、来週の日曜の夕方からなんですけど決勝戦があるんで、良かったら来て下さい」
「……ごめん」
――え?