【短編】ありふれたメロディ
「えっ、今なんて?」
信じられなくてオレは思わず聞き返していた。
少しだけ沈黙が流れて、菜月さんがゆっくりと口を開いた。
「ごめん行けないの」
「あ、もしかしてバンドとか興味ないですか?でも、ほら知り合いがやってるのみたりすると」
「私、結婚するんだ」
目の前が一瞬にして真っ白になっていった。
「……え?どういうことですか?」
それでも、そうやって口に出していた。
「神奈川の遠距離で付き合ってた彼氏に一月前にプロポーズされたの。」
菜月さんは淡々と話し続ける。
その声に表情は全くといっていいほど無かった。
「ここもね来週の水曜日に辞めちゃうの。日曜日には神奈川に引っ越すことになるから」
血の気が引いていく。
体温がみるみる下がっていくのが分かった。
なんだよ、なんだよこれ。
「……そ、そうだったんですか。いやぁ、おめでたいですね……本当」
決まり文句すらもすらすらと喋ることができないほど、オレは動揺してしまっていた。
「今までありがとう優太くん。動物園誘ってくれたこと本当に嬉しかった」