【短編】ありふれたメロディ
オレはゆっくりと振り向く。
そこには
「……菜月さん?」
オレの手を優しく包んでいたのは、まぎれもなく菜月さんの、あのやわらかな手だった。
「ここに来たら会える様な気がしたから……」
菜月さんは優しくオレの手をさすってくれた。
「オレ、もう会えないと思ってた」
「私もだよ。水曜がバイト最後だよって言ったのに来てくれないんだもん」
オレは立ち上がって自転車のカゴからあるものを菜月さんに手渡した。
「菜月さん、これ」
菜月さんがそれを受け取る。
「カセットテープ?」
「オレ、菜月さんに言えてなかったことがあった。今日はそれを伝えたくて」
「うん、なあに?」
深く息を吐いて気持ちを落ち着けた。
考えもなしに言葉を発してしまったら、言わなくて良いことまで言ってしまいそうだったから。
「菜月さん結婚おめでとうございます。どうかお幸せに」
頑張って笑顔をつくった。
菜月さんは涙をこぼしていた。
「うん、うん。ありがとう優太くん」