【短編】ありふれたメロディ
動物園
それからオレと陵は一切口を聞かなかった。
放課後になっても顔を見ることもなく、家路につく。
イヤホンからはいつも通りの曲が流れる。
好きな曲を聞きながらこぐ自転車はなんとなく好きだ。
嫌なことがあった時でも、その時だけはふわっと忘れられる。
「腹減った……」
たぶん本当。
いや、でももしかしたら見え見えの口実かもしれないけど。
オレはパン屋を訪れた。
カランカラン。
「いらっしゃいませー。あ、優太くん」
やばい、目あわせらんない。
「今日は何する?この前のカスタードのパイどうだった?」
あの笑顔をふりまきながら、近づいてくる菜月さん。
「あ、美味しかった……です」
なんでだ?
なんで菜月さんの前だとオレってこんな、格好悪い。
「あーまた敬語。別に使わなくても良いよって言ったのに」
「だって、あ……」
ばちっと目が合った。
「ん?」
顔が赤くなっていくのが自分で分かった。
恥ずかしくなって顔を伏せる。