【短編】貴方の背中
その手は、まだ湿り気の残る髪を、上からゆっくりと梳いていく。


 “パサッ”


バスタオルが床に落ちる。
懐かしい手つきに、気持ちは一瞬にして昔へと戻っていった。


私を包む、優しくて大きな……手。


でも……。


戻れない過去への気持ちが、形となって瞳に広がっていく。


 “ぴちゃんっ”


シャワーヘッドから雫が落ちた。
身体が震え、現実へと引き戻される。
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