【短編】貴方の背中
「髪……」


声に気付き、ビーフシチューに向けていた視線が前を向く。
スプーンを口に近づけたまま、上目がちな視線を私に向ける朝日奈部長。


「えっ?」


聞き返す私は、その刺すような視線に貫かれる。
一瞬の動揺。
身体が揺れるくらいの拍動。


「濡れていると、妙に色っぽいな」


フラッシュバックする日向の手、感触、匂い、そして声。
何かが湧き上がる。


目の前にいるのは朝日奈部長なのに。


お願い。これ以上、私を苦しめないで。
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