【短編】貴方の背中
「ウソだ! 今、家に電話してたじゃん」


もう一度、玄関まで行きドアを閉めて鍵を掛ける。ドアノブをしっかりと握りしめたまま、しゃがみ込む。


「朝日奈部長の家庭を、壊したくないんです。……お願いです、いつものように帰って下さい」


矛盾したお願い。
さっきは、居てほしいと願ったのに。


ドアの向こうで、いくつかの言葉が並ぶ。
でも、もう届かない。
それなのに、遠退く足音だけは耳に、はっきりと残っていく。
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