【短編】貴方の背中
「もっと……」


  “コトッ”


朝日奈部長の囁くような声と、カウンターに置かれた何かの音、気になって顔を上げた。


「えっ?」


カウンターのずっと向こう側。見えない何かを見るように、目を細める横顔。


「もっと早く話してたなら、何かが違っていたかな?」


カウンターの上には、輝きを失ったシルバーのリング。薬指の付け根には、その長かった年月を表す跡が見える。


いつ置かれたのか、新しいグラスを片手に持つ朝日奈部長。
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