【短編】貴方の背中
「君のことが好きだった」


朝日奈部長は言い終わるとグラスを傾け、中身を口に流し込んだ。


その言葉は、石を投げ込まれた水面のように、私の心を波立たせる。


「朝日奈部長……」


「最後まで、“朝日奈部長”だったな。一度で良い、名前を呼んでくれないか?」


私の心を見透かす台詞。寂し気な笑顔が、私を見つめている。
いつしか、水面は静けさを取り戻していた。


「……修一さん」
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