【短編】貴方の背中
私を見つめていた視線は上を向き、そっと瞼を閉じた。


「ありがとう。それだけで十分だ」


私は俯いて、泣いていた。


「君に偉そうなことを言っておいて、一番現実を見ていなかったのは俺だったんだ」


ふわっと髪に手が触れる。俯いている間に朝日奈部長は立ち上がっていた。


「現実から逃げることは出来ない。俺も君も」


泣いているため“はい”という二文字が言葉に出来ず、無言で頷く。
朝日奈部長の大きな手が、涙を拭っていく。
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