青に焦がれて。
「北川さんはデートですか?」
「へっ?」
帰る気満々なあたしは団欒に参加せず、帰り支度を着々と進めたいた所、突然話を振られた。
「クリスマスですよ。」
目をキラキラ輝かせてるのは3つ下の女の子。
「北川さんって、めちゃくちゃカッコイイ彼氏さんが居るんですよね?北川さんって、普段あまり自分の事喋らないから聞いたみたくって!」
今年大学を卒業した彼女は就職難の餌食になっちゃった子で、バイトをしながら現在就活中らしい。
「ええ、まぁ。カッコイイかどうかは分かんないけど。」
「じゃあ本当なんですね!?」
さっきから彼女のパワーに押され、彼女との会話に付いていけない。
3つ違うだけで、こんなにも若さもパワーも衰えるのか。
「本当って?」
「北川さんが彼氏さんと一緒に歩いてるのを遅番の子が見たって言ってたんですよ。しかも何人も!!」
確かに浩介と一緒に駅周辺を歩いた事はある。あたしのバイトが終わった後に待ち合わせしたりとか。
そんな事が話のネタになってるとは思わなかった。
「彼氏さんがカッコイー!って。皆言ってましたよ。しかもしかも!!コウに似てるって!!」
この町で浩介の認知度は高いらしい。
まるで芸能人のプライベートを目撃したかのように、彼女の興奮度も益々上がっていく。
「コウってあの“コウ”ですか!?」
「先月号のTTTownに載ってましたよね!」
一気に会話人口が増えた。
TTTownとはローカル情報誌。コンビニとかに置いてある無料雑誌の事だ。
「スゴいですね、北川さん。彼氏さんがコウに似てるって!!」
似てるんじゃなくて本人なんだよね。
彼女達の興奮を見ていると、なんだか言えなかった。更にアップしそうで。
クリスマスの予定はどこへやら。あっという間に内容はコウの話題になった。
あたしは「ありがとうね。」と差し障りのない返答をして、「お疲れです。」と退散した。