青に焦がれて。


忙しくはなかったけど、ケーキの受け取りに来たりパンを買いに来たりで、常にお客さんがいた。

そんな客足にダラダラと流されたあたしは、このまま流された勢いで逃亡しちまおうかとさえ考えた。

正しい選択ではないのはハッキリしてるけど。

出来るなら、いい言い訳見つかんないかなって。そう思いながら。



タイミングを見計らったように浩介から電話が来た。

『今どこ?』

確信犯なのに。パン屋が終わったの分かってて電話してきてるのに。

この後の予定の事も重なり、「駅。」一言で、いつもより少し低めの声を出した。

『そうか。リハとか準備で迎えに行けないけど、場所分かるか?』

今日は冗談抜きで本当に忙しいんだと思う。

電話の向こう側から「おーい!コウまだかよ!?」浩介を呼ぶ声と音楽がザワザワ聞こえる。

そんな中あたしの事を気にして電話をくれたのに、一言で答えた事に申し訳なく感じた。

「うん、なんとなく。」

ごめんね、って気持ちを込めて。

『パスだけは忘れんなよ。後でな。』

「うん、あとで。」

役目を終えた携帯電話はシンプルな画面を表示していた。元々買った時から入ってるプリインの待受画面。

友達と一緒に写った写真とか、好きな人をコッソリ隠し撮りした写真とか、彼氏と一緒に撮った写真とかでもなく。

携帯無精なのは、あたしが年を重ねた証拠なのか。それとも携帯自体に生活の重要性をおいていないからなのか。

オールシーズン向日葵が表示されている画面は、真っ直ぐに空に向かっている。



あたしは軽く息を付き、さてさてどうしようかと迷った。

時間まで暇を潰してイベント会場に行くか。一旦家に帰るか。

パン屋独特の油っぽい臭い。動く度に頭から臭ってくる。

面倒だと思いながらもシャワーを浴びるため家に帰る事にした。

< 28 / 33 >

この作品をシェア

pagetop