【完】─片思い─
「ねぇ、何読んでるの?」
「ぇっ…」
「三浦サン、だよねっ?」
黒髪の、綺麗なセミロング。
そっと微笑んだ笑顔は、可愛かった。
けど…なぜか、胸に何かがひっかかった。
「あたし、稲実! わかる?」
「ぇ、ぁ、稲実ちゃん…?」
「あ、違う違う! ”いなみ”は、名字なんだ!」
「ご、ごめんっ!」
「いいのいいの! よく間違われるし! 名前は、”カズ”」
「カズちゃん…?」
「和やか、って書いて”和”! 名前で呼ぶときは、”ちゃん”なしね! 男みたいな名前だからさっ」
「そ、そんなことない! 可愛いよ!」
「…ははっ! ありがと! 紗季ちゃんって、結構直球なんだね!」
「///」
思わず、涙が出てきそうだった。
嬉しかったんだ。単純に。
あたしに、笑いかけてくれることが…。