その一瞬を、焼き付けて。-短編集-
『…面倒でしょ?もうすぐいなくなる彼女なんて…』
思うより声に力が入らない。
強く言いたいのに。
ううん、言わなきゃいけないの。
『あなたには私と短い時間を過ごすより、他のいい人と長い人生を過ごす方がいいよ、それに…っ!!』
話す途中で後ろから強く、強く抱きしめられた。
もう味わえないと思った温もりに、私は言葉を失った。
『お前…馬鹿だよ、本当…』
少し震えるあなたの声。
抱きしめる腕の力は、更に強くなった。
『お前と連絡取れなくなって、心配しながら毎日を過ごし、やっと会えたと思ったら馬鹿なこと言って…』
腕の中から解放され、向かい合わせになり、久しぶりにあなたの顔を見た。
あぁ、少し痩せたみたい。
心配させたからかな。
『…馬鹿。』
あなたの指が、いつの間にか流していた私の涙を拭う。
私は、あなたが好き。
本当は傍にいて欲しい。
でも迷惑はかけたくない。
悲しませたくない。
そんな想いが交差していたの。
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