ちっぽけな世界の片隅で。
赤い手のひらが、シャーペンを包み込む。
それを一通り見届けると、わたしは自分のプリントの続きを解きはじめた。
木曜日。
学校と部活が終わって、今は、塾。
午後六時開始、九時終わりで、月・木の週二回、実施される。
松尾塾は少人数制だから、長机は三つだけだ。
それを、タテ・ヨコ・タテ、にくっつけて、コの字型を作っている。
コの字の真ん中が、松尾先生の居場所。ホワイトボードを使って、わたしたちに勉強を教えてくれる。
まず最初は、先生がつくった、復習のプリントから。おわったあとに先生が解説をする。
質問も、いつだって受付中。最後の三十分は、授業でまだ習っていない部分の、予習に使われる。
「学校の授業が本分」
これが、松尾先生の主義。だから、復習にたっぷり、時間を当てたいらしい。
みんなの頭のなかは、網の目だからね。先生は言う。
「網の目が大きい子と、小さい子がいるけど、どんなに賢い子でも、穴があるの。その穴から、大事な知識をポロっと、落としてしまうの。そのまま歩いて行っちゃうと、拾えないところまで来ちゃうから、この塾は、それをちゃんと拾えるように、助ける役割なのよ」