ちっぽけな世界の片隅で。
わたしをこんなにもモヤモヤさせているくせに、当人の田岡が、いつも通り調子よく騒いでいたものだから、よけいにイライラさせられる。
ストレスのせいで、十円ハゲでもできたらどうしてくれるんだ。
ジュウエンムイチはそっちなんだから、十円ハゲがお似合いなのは、田岡のはずなのに。ジュウエンハゲに、改名してしまえ。
こんなのは、逆恨みだってわかってるけど。でも。
「さっそく一つ目のお悩み、行きましょう!えー、本日は、岩手県!!高校一年生女子、ペンネーム、ケーチュンさんからいただきました──」
慣れ親しんだ低い声が耳に入ると、夜の空気にとけ込んでしまえたような気分になる。
ドラマでよくある光景。ベランダでふかす、タバコのけむり。すうっと、空にのぼって。溶ける。
白いけむりが肺ガンの原因になるんじゃなくて、夜空にのぼって星になるなら、ものすごくロマンチックなのに。
日本のどこかで、だれかさんが悩んでる。
田岡じゃないか疑惑の、ジュウエンムイチも悩んでる。
わたしもきっと、悩んでる。でも、その悩みはモヤモヤした霧のなかにあるみたいで、ハッキリとしない。