ちっぽけな世界の片隅で。
満月型の大アクビが、そのままゆるんで、半月型の笑顔に変わる。
「よ、三橋」
よお、田岡。同じ文字数を返して、わたしも笑った。
田岡が止まって、わたしを待っている。
田岡に近づきながら、なんていうか、キャンペーン中みたいだな、と思う。
田岡キャンペーン中。俳優が、映画の宣伝で、ひんぱんにバラエティ番組に出演する、アレ。
クラスはちがうし、塾以外では見かけない時期もあったのに。昨晩も今日も、塾以外の場面で、田岡に遭遇してしまっている。
「三橋、早いじゃん」
「あー・・・ね。今日さ、一時間目当たるのに、宿題やってなかったんだよね。昨日帰って、すぐ寝ちゃったし」
わたしが言うと、田岡の顔が 、パッとかがやいた。
「あー一緒!おれも!!」
「うーわー。田岡とおそろいかぁ」
「うーわー。傷つくー。もっと喜べよ」
バカな言い合いをしながら、並んで歩いた。
昨晩のことがあったからか、明るいなかの制服は、すこし変なかんじがした。