ちっぽけな世界の片隅で。
(5)


なにかが、しずんでいる。

ぶくぶくと、泡をすこしずつ吐いて、すこしずつ、しずんでいく。


だれも、手を差し出さない。

手をのばせば、すくうことができる距離なのに。


そうしてわたしたちは、笑いもせず、泣きもせず、見ている。

しずんでいくものが、海底の、二度と光をあびることのない黒い岩となっていくのを、ただ、傍観している。


なにかが黒い岩となって、じゃあ、それを見ているだけのわたしたちは 、いったい何になれるのだろう。






週あけの、月曜日。

お母さんがテレビをつけると、朝のニュースが、大ボリュームでかかった。

起きているのに、耳元で目覚ましを鳴らされるような、不快さ。


どうせ、深夜までテレビを見ていたお父さんが、音量をあげたままにしていたのだろう。

楽しみにしている遅い時間のレース番組で、エンジン音は大きいほうがいい、とか言って、いつも音量ボタンをいじくっているから。



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