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* * * *



糸田は重い気持ちのまま玄関をくぐり、いつものように「ただいまー」と声を張り上げる。

こだまのように「お帰りー」と返ってくる母の声を聞いて、罪悪感のようなものが胸に落ちてくるのをなんとなく感じた。

両親と姉に内緒で、結婚式を妨害し、あわよくば彼氏と彼女を駈け落ちさせてしまおうという自分の安直な考えは、どれだけ家族を傷付ける事になるのだろう。

今更後には引けない。

もう彼氏の方には連絡済みなのだ。


「真幸、お帰り」

「…ただいま」


荷造りをしていたのか、慌ただしく階段を上り下りしている姉・早智(さち)は、糸田の姿を確認すると、柔らかく微笑んだ。

ちくり、と心に細い針が刺さるかのような感覚。糸田は俯いた。

何が正しくて、自分がどうすれば良いのかなんて、本当は知っているつもりだった。

けれど、早智の哀しげな笑みを見たときに、「これではダメだ」と思ったのは紛れもなく自分――糸田真幸だった。


笑顔で「おめでとう」を言うためには、彼女の相手が違うのだ。


糸田は早々に部屋へと駆け上がった。







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