a☆u★c-G2-!



明衣はふと、さっきから一言も口を開かずにこちらを見守っていた楡を振り返った。

彼は何杯目かのコーヒーを口に運びながら、テーブルに広げられた手紙を読んでいる。

文字を追い掛けて、彼の色素の薄い瞳が左右に揺れ動く。

そんな明衣の視線に気が付いたのか、楡はひどく怠慢な動作で顔を上げ、ソファーに座ったまま明衣を見上げた。


「なに」

「えっ?」

「さっきから見てたでしょ。なに、俺何か付いてる?」


明衣は楡を無意識に見ていたのだと気付いて焦った。

そして、苦し紛れに口を動かす。


「別に!呑気にコーヒー飲んでるアホ面が面白かっただけよ」

「あっそ」


興味無さそうに短い返事をすると、楡は再び手紙に目を落とす。明衣の内心の自己嫌悪には全く気が付かない。


(あたしのバカ!今の超カンジ悪かったぁ!)


――本当は、足のお礼したかったのに。

ドレスの明衣を担いで、必死に走ってくれた楡。
足を気遣って、手当てしてくれた楡。

明衣のもやもやした気分に拍車を掛けるかのように、テレビからはウェディングドレスのCMが流れていた。


「よっしゃあ、早速マリカしましょ!」

「え、えっ、ちょっと……」

「待て待て!これは立派な盗電だぞ!」

「…のわりにちゃっかりコントローラー持ってるね」


CMは切られ、賑やかなBGMが鳴り響いた。

部室は今日も、歓声と罵声が飛び交っている。







【愛してエスケープ!:完】


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