ワケアリ夫婦っ!!
あたしも日向も急ぎながら準備していると………。
ピンポーンと、部屋のインターホンが鳴り響いた。
「ヤベッ! たぶん中津だ。ごめん奈央、俺もう少しで支度できるから出てて!」
「わ、わかった……」
日向にそう言われて、あたしは玄関へと向かうけど。
正直気持ちは少しだけブルー。
だって……。
「おはようございます。日向さんのお迎えに上がりました」
「おはようございます……中津さん」
ビシッと黒スーツを着こなして、黒い縁ありメガネの奥から少し鋭い目線を光らせる彼。
中津さん。というこの人は、日向のマネージャーさん。
「日向さんは?また寝坊ですか」
「あの……もう少しで準備できると思うんですけど……」
おずおずと顔を上げて、日向よりも身長の高い彼を見上げる。
一瞬、細長いその瞳で睨まれたかと思うと、そのまま呆れたように一息吐いた。
「はぁ。あなたと結婚してから、日向さんは少しだらしなくなった気がします。だから私は嫌だったんですよ。一般人の、ましてや高校生と結婚なんて」
「す、すみません………」
「今後気をつけていただきたい」
この通り、あきらかにあたしが気に入らないオーラを出す彼が……あたしはすごく苦手で。
確かに、この結婚をみんながみんな祝ってくれるだなんて思ってはなかったけど……。
やっぱり、日向の仕事を一番身近で支えている彼に認めてもらえないのは、少し悲しい。
…………いつか。中津さんに『日向にふさわしい女』として認めてほしい。
そのために、もっと努力しなきゃな。
「悪い中津!」
しばらくして、着替えや準備を済ませた日向がドタバタとリビングから出てくる。
「車は下に準備してあります。急いで下さい。行きますよ」
「相変わらず無愛想だな。中津は」
「呑気なこと言ってる暇はないですよ。だいたい最近の日向さんは……」
「はいはい! 説教は後で聞くから。じゃあ、行ってくるな奈央!」
そう言った日向は、苦笑いで中津さんの説教を聞き流しながら仕事へと出発した。
「………いってらっしゃい」
パタンと静かに閉まった扉にそう呟いて、あたしも学校へと行く準備を始めた。