ワケアリ夫婦っ!!
「名前のことも……だけど。彼氏の話を俺にした時の今井の瞳に、アンタはいなかったからな」
「…………っ」
「安心しろ。別に、なんで今日ここに来たのが、本当の彼氏じゃないのかとか。コイツが誰なのかとか、もう気にする気はない」
「煌星……」
「何か、ワケがあるんだろ。それなら、俺にそれを聞く権利はねぇから」
そう言った煌星は、悲しそうな薄い笑みを浮かべた。
「ただ、今井のこと好きになったのは、後悔してないから」
「あたしも、煌星と友達になれたことは後悔してないよ」

昨日の煌星は確かに、別人のように怖くて、冷たかった。
だけど、バイト中に仕事を教えてくれたり。
マメ太のことで、いろいろ付き合ってくれた彼は、紛れもなく優しい煌星だったから。
きっとそれは、偽者なんかじゃなかった。

「俺が言うのも変だけど。………幸せに、なれよ」
「……………うん。煌星もね」
最後に寂しそうな笑顔でそう言った彼は、そのままあたしたちに背を向けて歩き出した。
きっと、これであたしたちは普通の友達に戻れた。
……けどあたしは、もうバイトをやめるのを決めていた。
だから、煌星と会うのはこれで最後。
「………バイバイ」
いつか、本当に煌星のことを分かってくれるような女の子と、幸せになれるといいな。
小さくなっていく後ろ姿にそう呟いて、あたしは中津さんとその場を去った。
< 266 / 384 >

この作品をシェア

pagetop