幕末怪異聞録
「何故てめぇの兄貴見たら、野郎が逃げんだよ。」
突然逃げた自分の相手にご立腹したのか機嫌が悪い土方。
「あー……。
前、私をさらおうとしたとき冬兄が現れて、半殺しにしたんだよ。」
『逃げ足の速い野郎だ!』
呆れたように溜め息をつく冬鬼に灰鐘はさらに呆れた表情を向けた。
「いい加減妹離れしてよね。」
その言葉に冬鬼はカッと目を見開いた。
『何を言う!
可愛い妹の仇は俺の仇だ!』
「あっ…そ…。」
そう言うとぐったりとしてしまった灰鐘。
「時雨?」
不審に思った土方は灰鐘に近づき、おでこに手をやった。
「――!?
熱があるじゃねえか!」
『何!?』
ぎょっとした冬鬼は、思わず腕から灰鐘が離れてしまった。
「―――っとあぶねえな…。
とりあえず部屋に寝かすか。
総司、水張った桶と手拭い持って来い。」
「はーい。」
土方は、灰鐘をお姫様抱っこして部屋に入っていった。